Pathogenesis and transmission of swine origin A(H3N2)v influenza viruses in ferrets

Pearce MB, Jayaraman A, Pappas C, Belser JA, Zeng H, Gustin KM, Maines TR, Sun X, Raman R, Cox NJ, Sasisekharan R, Katz JM, Tumpey TM.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2012 Mar 6;109(10):3944-9. Epub 2012 Feb 2
論文はこちら。

インフルエンザウイルスはオルソミクソウイルス科に属するマイナス1本差RNAウイルスで、8本に分節するゲノムを持つ。
インフルエンザウイルスはヌクレオカプシドタンパクとマトリックスタンパクの抗原性によってA,B,C型に分類される。(うち「インフルエンザ」を起こすのはA型とB型)
さらにA型インフルエンザではウイルス膜糖タンパクの抗原性の違いからさらに細かく分類される。この表面糖タンパクの多様性が、A型インフルエンザが世界的流行を引き起こす大きな原因である。(糖タンパクであるヘマグルチニン(HA)にはH1〜H15、ノイラミニダーゼ(NA)にはN1〜N9の亜型がある。うち、ヒトに感染性を持つのはH1N1,H2N2,H3N2亜型)

H3N2亜型インフルエンザウイルス(以降、A(H3N2)v)は1968年に香港かぜとして世界的な流行を起こしている。その後、point mutationなどにより少しずつ抗原性を変えながら、A(H3N2)vは基本的に秋から春にかけて流行する季節性インフルエンザウイルスとして毎年流行を繰り返してきた。
1997年から1998年にかけてアメリカ北部で、ヒト由来のA(H3N2)vがヒトからブタに感染し、ブタに適合し、ブタの間で広く流行していることが報告された。この新しいswine origin A(H3N2)vは、ヒト由来、ブタ由来、トリ由来のゲノムを持つtriple-reassortant swine (TRS)ウイルスであることが確認されている。これらのウイルスはブタの間でのみ流行していると思われていたが、2009年以降で17例、ヒトに感染するケースも報告された。数例では、限られた条件ではあるもののヒトからヒトへの感染もみられた。また、このウイルスは季節性のA(H3N2)vとは抗体の交差性が低いことがわかっているため、このウイルスが本格的にヒトに適合すれば、2009年のパンデミックのような世界的流行が再び起こることが危惧される。

※reassortant(遺伝子再集合):インフルエンザウイルスのゲノムは8本に分節しているため、同じ細胞中に異なるウイルスが感染した場合、細胞内でお互いの分節が混ざりあい、2種類のウイルスの分節をさまざまな組み合わせで持つウイルスができる。これをreassortant(遺伝子再集合)といい、インフルエンザウイルスの多様性の一因である。今回の論文のウイルスは、ヒトとブタとトリ由来の分節を持っているため、「Triple」reassortant。
こちらの図をご参照くださいまし。
※あと、もともとヒトのウイルスがブタに感染したんだから、human originじゃねーかというつっこみもありましょうが、ブタに適合してるので、swine originです。

今回の論文は、2009年から2011年にかけてヒトから分離されたswine origin A(H3N2)vの病原性・伝染性をフェレットモデルを用いてパンデミックを起こしうるウイルスか、検討したものである。
フェレットはインフルエンザウイルスのレセプター(ヒトと同じレセプター)をヒトと同じく気道に持つため、インフルエンザのモデル動物として最適。

分離されたA(H3N2)vは以下の4種類である。(※インフルエンザウイルスの株は A型/分離された場所/その年に分離された順番/分離された年)
・A/Kansas/13/2009 (KS/09)…12歳・男性から分離。インフル様症状あり。ブタ(healthy)との接触あり。
・A/Minnesota/11/10 (MN/10)…37歳・男性から分離。ブタとの接触あり。
・A/Pennsylvania/14/10 (PA/10)…45歳・男性から分離。ブタとの接触は不明。
・A/Indiana/08/11 (IM/11)…幼児から分離。保育士から感染??

これらのウイルスをフェレットに経鼻的に感染させ(n=3)、検討を行った。
まず病原性であるが、ウイルスを感染させたすべてのフェレットで季節性インフルエンザと同様の症状(体重減少・発熱)がみられた。また、KS/09株では上気道および肺でウイルスが検出されたのに対し、2010年以降のウイルスでは上気道のみでウイルスが検出された。
次に伝染性を検討したところ、濃厚接触ではすべての株のウイルスが3日以内に感染。飛沫接触ではKS/09以外の3つの株で3日以内の感染が見られた。
KS/09株では3日以内の飛沫感染は見られなかった。
※濃厚接触:ウイルス感染フェレットと非感染フェレットを同じケージで飼う。感染群・非感染群ともに1日毎にフェレットの鼻の洗浄液を採取し、ウイルスのtiter測定。
※飛沫接触:感染フェレットと非感染フェレットをトナリのケージで飼う。間の壁に穴をあけ、飛沫がトナリのケージに飛ぶようにする。感染群・非感染群ともに1日毎にフェレットの鼻の洗浄液を採取し、ウイルスのtiter測定。

次にHAのレセプターであるシアル酸との結合性を検討したところ、KS/09,MN/10,PA/10の3つの株でα2-6型のシアル酸との強い結合が見られた。一方でα2-3型のシアル酸との結合はほぼ確認されなかった。これはヒトの季節性インフルエンザウイルスと同様の結果である。さらに、レセプター結合サイトのシーケンスを確認したところ、ヒトで広く流行している季節性インフルエンザと同じであった。
シアル酸にはα2-3結合型とα2-6結合型がある。ヒトの気道粘膜に存在するシアル酸はα2-6型であり、ヒトインフルエンザウイルスのHAはα2-6結合型との親和性が高い。一方、トリの大腸粘膜に存在するシアル酸の多くははα2-3結合型であり、トリインフルエンザウイルスのHAはα2-3結合型との親和性が高い。ブタの気道粘膜にはα2-3型、α2-6型両方が存在し、どちらのウイルスとも結合できる。

最後にヒトの気道上皮細胞であるCalu-3細胞にウイルスを感染させ、複製効率・ウイルス産生をみたところ、今回分離されたウイルスのすべての株で、季節性インフルエンザよりも複製効率・ウイルス産生ともに高いことがわかった。

これらのことから、今回分離されたswine origin A(H3N2)vウイルスはヒトにおいて、高い病原性・伝染性を持ちうることが確認され、十分にパンデミックを起こしうる可能性を持っていることがわかった。特に興味深いのは2009年に分離された株(KS/09)では十分な伝染性を持っていないが、2010年以降に分離された株では十分な伝染性を獲得している点である。さらに、最初のフェレットへの感染実験で、KS/09株は肺へのトロピズムも見られたのに対し、2010年以降のウイルスでは上気道への感染のみであった。このことから、2010年以降でよりヒトへ適合するウイルスへと変化していることが考えられる。
H3N2亜型のインフルエンザウイルスはH1N1亜型に比べてシビアな流行を引き起こすと言われている(らしい)。2009年の新型インフルエンザウイルスはH1N1亜型であったが、今回のウイルスは今後、どのように変化していくのであろうか。